天のしずく 辰巳芳子(命のスープ)

人生を70年として考えてみると
食事の回数は1日3回食べるとして計算すると
一年間で1095回
人生70年で76650回しか食事を取れないことになる

意外に食べられないものだ

そう考えると食というものを
再度大事に深く考えてみたくなった
 
食は命にダイレクトにつながっているもの
人間の食は呼吸と等しく命に組み込まれていく
しかし現在では
自然の恵みの食材から命を支える食へのプロセスが料理であるはずなのに
時間と手間を省いた工業化学製品のような食が
巷に氾濫し、それを便利に思っている人が多い
まさしくまがい物の食に取り込まれているのが
現在の姿なのかもしれない
 
そんな折に天のしずくの映画が上映された
料理研究家として名高い辰巳芳子氏の
ドキュメントの映画だ
 
辰巳さんは料理家でもあり作家でもある
 
1944年 戦時中に結婚をした夫とはわずか3週間ほどの
       新婚生活で出征、戦死してしまった
1945年 結核を発症、15年にも及ぶ療養生活を余儀なくされる
1964年 料理家として活躍を始めた母の手伝いを始める
1972年 父が脳血栓の再発で入院
       母娘でスープを持参する日々が続く
       これがのちに命のスープと言われることになる
1977年 母心臓麻痺で死去
1980年 父死去
      鎌倉のクリニックに週1回30人分のスープを届ける
1996年 スープ教室を始める
 
映画の監督は河邑厚徳氏
NHK出身で様々なドキュメンタリーで
独自の手法で賞を取っている方である
 
映画の中での辰巳さんは上品でシックだが
何といっても手が素晴らしい
スープをかき混ぜている手
紫蘇を摘み紫蘇をもんでいる手
梅干しを干している手
手の所作が形ができていてとても美しい
しかも出てくる日本の風景はなぜか懐かしく穏やかだ
 
映画の中では鍋のスープを何度も愛おしく
かき混ぜている辰巳の姿が出てくるが
手の感触を通じて何かを成す
それがとても美的に思えた
 
そのスープはいつの日か命のスープと言われるようになり
数々の医療現場でも活躍している
辰巳のスープ教室は何年先まで予約でいっぱい
 
食べ物が命の源であり
日々食べたもので命が刷新されていく
そのことを深く感じた
 
わずか3週間の結婚生活
私は50年間ずっと悩んできた
この人生で良かったのだろうかと・・・・
結婚50周年の時、戦死したフィリピンから主人が呼んでいるような気がして
フィリピンのセブ島に行った
その時に私は夫に幸せな人生でした と素直に言えたと言う
 
辰巳さんの人生には3つの大きな出来事がある
戦死した夫との別れ
結核
そして両親の死
この3つがふっ切れたのはフィリピン旅行が大きいと感じた
全てが解き放たれ
その後スープ教室など数々の社会活動を精力的に行っていく
 
穏やかな一つ一つのシーンが思い浮かぶ秀作であった
 
最後に一つ辰巳さんの面白い話を
すりこ木とミキサーの違いだ
ミキサーは粉砕
すりこ木は融合だと・・・・
融合とは手の触感と五感を総動員してできるもの
融合こそが食の極意なのだとこの映画は教えてくれているのかもしれない