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そば打ち一代(浅草・蕎亭大黒屋)

共同通信編集委員の上野敏彦氏
また新しい本を平凡社から出版した。
しかも私の大好きな蕎麦の本だ
読むと現代に通じる蕎麦の文化と人と歴史も分かりやすく描かれている
上野氏の飽くなき探究心にはいつも驚かされてしまう
 
登場するのは一茶庵の創始者の片倉康雄
そして、その思想を引継ぎ、現在も
一心不乱に蕎麦の道を歩き続ける菅野成雄の世界を
浅草の栄枯盛衰の中で蕎麦文化の歴史と共に描いている
 
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蕎麦の神様ともいわれた片倉康雄
彼の思想を凝縮した言葉がこの本に書いてあるが
菅野成雄の浅草の大黒屋のお店にも額に入れて飾ってあるという
 
「食はすべて そのもとをあきらかにし、調理をあやまたず、
そこのうことなければ、味わいすぐれ、からだを養い、
病をもいやし、よく人を作る」
 
まさに農業と調理の本質を良く言い表わしている。
この言葉は農業に携わる者
あるいは料理の世界を志す者にとっては
必然の言葉だろう。
 
蕎麦は手打ちの時代から
明治時代以降に普及した機械打ちが普及したことで
いっぺんに手打ちそばが廃れていく
その流れを打ち破り、手打蕎麦を復興させるのに貢献した
大きな存在が片倉康雄だった事も書かれている
 
菅野成雄氏は片倉氏の三男英晴氏の
一茶庵・西神田店に入り4年間修行し独立
名前は蕎亭大黒屋として開いたのは昭和52年11月
独立してからも、片倉康雄氏への足利詣でもかかすことはなかった。
 
菅野氏は片倉氏の言葉をノートにまとめている
興味深いのは蕎麦だけではなく、つまみの作りかただ
 
旨いぬか漬を作るためには
ニンジンやダイコンは干し、キュウリ、ナスは塩もみにして使うが
糠床に佐久間ドロップを入れるのが隠し技
 
豚の角煮は酒、味醂、醤油などで煮るが
仕上げにオレンジ味がするフランスのリキュール、コアントローを加える
 
こんにゃくの辛煎りはコンニャク、しょうが、モツを
酒、醤油で煮て味醂を加える
ベーリーブスやクローブ、セージなどを香料として使い
コニャックを最後に垂らす
 
この作り方だけでも感嘆してしまう
海外の食材までも使用する感性の鋭さ
いかに片倉氏が先駆的な人であったかも理解できる
 
さて菅野氏は、
店の仕入れの蕎麦に納得がいかないため
自ら夫婦で栽培に乗り出し、
ついには岐阜の下呂温泉 蕎麦料理仲佐の
ご主人中林伸一氏との出会いにより
在来種のそばの香り高さ、濃厚な味、こしの強さに魅了されていく
現在の大黒屋の蕎麦は
在来種と改良種を混ぜて打つ
そうすることによって、独特の風味のある蕎麦になるという
 
菅野氏は蕎麦についてこのように語っている
 
蕎麦は怖い
粉と水だけでできる単純なもの
だけれど、何か工夫をすれば
必ず応えてくれるのが蕎麦です。
温度や湿度などの気候に左右されるのはもちろんのこと
打ち手である自分の体調や気分、気力で
出来上がる蕎麦は全く違ったものになる。
 
蕎麦の言葉を自分の目指すことに変えるだけで
すべての真実はこの言葉で現されているように思う。
蕎麦の歴史や系譜だけでなく、
大黒屋のファンだった高円宮の話も取り混ぜて
蕎麦ファンとしては必読書の本である!
是非一読を・・・・・・
 
残念ながら蕎麦好きの私も大黒屋にはまだ行っていない
早い機会に菅野さんの蕎麦を堪能したいと考えている。