美女と野獣(第144回芥川賞)
まさしく美女と野獣だ
第144回芥川賞はきことわの朝吹真理子と苦役列車の西川賢太に決定した
文章表現、外見、実生活、風貌 ものの見事に正反対
共通点は唯一つ 文章力のテクニックの凄さだ
きことわ (朝吹真理子)
なんとも柔らかくそれでいて響きのあるタイトルだろう
フランス文学名門一族の家に生まれ、
詩人 朝吹亮二氏の娘でもある
自らも松尾芭蕉の奥の細道をめぐったり
歌舞伎の鶴屋南北などの研究など古典もしっかり勉強している
慶応大学前期博士課程在学中の26歳
まさしく正真正銘のセレブ美女
貴子(きこ)と永遠子(とわこ)の2人の女性の
25年間という時間を隔てての再開
葉山の別荘に遊びにきた貴子(きこ)と葉山の別荘の管理人の娘 永遠子(とわこ)
貴子(きこ)8歳、永遠子(とわこ)15歳の夏の一日
別荘が壊されるということで25年ぶりに葉山を晩秋に貴子(きこ)が訪れることになる
時間、記憶がモザイクのように精密に計算されている表現が
頭の悪い私には時間のからくりに満ち溢れていて少し読みずらいところもあったが
審査員にはほぼ完璧な評価だった
ただ私など一般の人には少しわかりづらく、少し退屈
限りなく洗練されているがなんとも曖昧なのだ
なぜか浅い眠りの中で夢を見つつまどろんでいる頭の中に
現れる情景に似ていたりもする
夢か現実かわからないパステルカラーのトンネルの中にいるような錯覚さえする
文章の圧倒的なテクニックと表現力
人生経験がもうすこし深くなってからの文章表現が見たいものだ
久々の大型新人が誕生した
受賞しての彼女の文章がとても作品を良く表しているので紹介したい
1秒はまた次の1秒へと続く
進み続ける時間に隙間などは存在しようがないはずなのに
ときおり思いもよらない形でぴたりと接しあう1秒1秒の切れ目に
ヴィジョンが差し込まれてくる
それは時間の裂け目から不意に現れてはすぐ消える・・・・
・・・・ヴィジョンは時間の理の向こうからやってくる
それは到来した後にしかわからず、たえず未来からやってくる
永遠に 『現在』 とならないところから到来するものだと思う
私の書く手も、おずおずとだが、『未来』に向けて差し出しているという気がしている (朝吹真理子)
苦役列車 (西村賢太)
中卒、逮捕歴ありのキャッチが、そのままぴったりはまってしまう風貌だ
まさに野獣と言ったほうがいいだろう
どーんと重量感あふれる文章は実生活から来た
質感から出てきているのだろう
悪びれもなく開き直った私小説
豊穣で甘えた時代の中で反逆的な表現はむしろ新鮮でさえある
不安という時代背景の中で
時代の共感は思った以上に得られる作品であろう