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悪人(吉田修一)

朝日新聞夕刊に2006年3月から2007年1月に連載され
毎日出版文化賞、大佛次郎賞をダブル受賞
かねてから注目していた作家 吉田修一がよりスケールアップした作品
遅ればせながらやっと読み終わった
 
通常の乾いた日常生活の中で
誰もが悪人に落とされる時や機会が待ち受ける
人間関係が稀薄な現代社会の中で社会のひずみ(出会い系サイト、マルチ商法)
が様々な形で描かれ、それが田舎の風景と重なり合っていく
 
本の半分まではイントロが長かったが
2人の出会い、殺された家族の描写あたりから
一気に生き生きと情景が目に浮かぶようになってくる
刹那的な男女の感情の機微が、自然にフラットに体に吸収されていく
 
この小説の2つの文章は私の胸を揺さぶった
そして瞬間的に出てくる涙は止められない
 
自首しようとする祐一を引き止める光代
 
私だけおいていかんで・・・
 
私ね 祐一と会うまで一日がこげん大切に思えたことなかった
仕事しとったらあっという間に一日が終わって
あっという間に1週間が過ぎて
気が付くともう1年
わたし今まで何しとったんやろ
何で今まで祐一に会えんかったんやろ
今までの一年と祐一と過ごす1日やったら、私迷わずこの1日を選ぶ
 
殺された家族の父親がつぶやく
 
あんた大切な人がおるね!
その人の幸せそうな様子を思うだけで自分まで嬉しくなってくるような人たい!
 
今の世の中、大切な人がおらん人間が多すぎったい
大切な人間がおらん人間は何でも出来ると思い込む
自分には失うものがないから、それで自分が強くなった気になっとる
失うものがなければ、欲しいものもない
だけんやろう
自分を余裕のある人間だと思い込んで
失ったり、欲しかったり一喜一憂する人間を馬鹿にした目で眺めてる
そうじゃなかとよ!
それじゃ駄目とよ・・・・・・
 
痛く、切なく、優しい小説だ
現代社会は無意識、無関心にな